賢者のワイン

2025/04/20 17:02



 メルボルンの近郊にはワインの銘醸地が点在しています。大都市の中心街からわずか数十キロのところに、広大な葡萄畑が広がるのがオーストラリアの面白いところです。
 
 メルボルンはポートフィリップ湾の最深部に位置し、天然の良港とされています。この湾は海洋の一部ということになっていますが、地形からすると浜名湖のような汽水湖といってよいのではないかと思います。

 このワイナリーの位置するモーニントン半島は、湾の東南を三日月状に囲っていて、先端部が砂嘴になっています(某地形探訪番組がメルボルンを訪れたら真っ先に着目するはずです)。

 ここは冷涼な気候で、ピノ・グリージョに好適なことを発見して植えたところ大成功を果たし、「ピノ・グリージョの女王」の称号を得たのが、このワイナリーの創設者カサリン・クイーリーなんだそうです。

 数ある豪州産ピノ・グリージョ(ピノグリも同じ品種です)のなかには、ねっとりと粘性の高いタイプと、軽快なタイプがあります。

 このワインは後者です。薄めのレモン色に、 香りは抑制的です。強いていえば、ネクタリンの切り口やライチの齧り口といった香りですが、これみよがしの香気が先走ることなく、本題である味のほうへと導線を引いています。

 1口含むと、まずもってバランスの良さが感じられます。何も突出せず、酸がもの凄~くキレイで透き通ります。
「透きとほる」と表記したい衝動にかられるくらい透明感があり、澄んでいます。

 喉越しからは、干さないアンズのニュアンスを感じて、次にネクタリンをかぶりついた時の風味が襲ってきます。
この品種特有のほのかな苦みもありますが、粘性は低位です。

 このクイーリーの同じブドウ品種の定番ワインのほうが粘性が高く、こちらはさらっとしています。
上位ラインに位置するこのマザーオブパールに現れた特性こそが、造り手の正直な想いではないのでしょうか。

 サラ~とエレガントで流麗な酒質を目指していたのかと思われます。
立ちはだかるものがなく、す~っと吸い込まれれいく先にあるのは、何もないミニマルな桃源郷かもしれません。

 鼻腔から出る息には、この品種特有のミネラルを湛えた貝殻を砕いたような風味が残ります。
梅雨入り前の、高温でありながら空気の乾いたシーズンに最高のワインです。

 現地価格の高騰により、このような形で紹介できるのはこれが最後になってしまいそうなのが残念ですが、これに間に合った愛好家は幸運といえます。

酒言葉=清冽

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