2023/08/08 12:23

銀座にある焼鳥屋さんの話です。
ちなみに、同名の店は銀座にも新橋にも何軒かあって、全国にはそれこそ数えきれないほどあります。
それらがどうつながっているのか承知していません。
さて、銀座のそのお店には、いまどき珍しいお燗番がいます。
看板娘とはまったく関係なく、お燗をつける当番です。
ビールや酎ハイが伸びてくる前には、どこの居酒屋や料理屋さんにも、燗床と呼ばれる湯だまりの前に陣取って、清酒を適温に湯煎するお燗番がいたものです。
だんだんお燗の需要がなくなっていくにしたがって、お燗番も飲み物全般の担当をするようになったり、もう廃止して通常のホール係が片手間でやるようになったりしていきました。
技術革新としては、高度成長期に酒燗機(しゅかんき)の登場がありました。
一升瓶をさかさまにして機械に差し込むと、適量の酒が自動的に機内で適温に温められ、ボタン1つで自動計量してお銚子に注がれるものです。
この新型機械の出現と、そのあとに現れた冷酒ブームの影響で、日本中のお燗番は急速に職を失っていきました。
そのお燗番がいまでも現職で動き回っています。
大昔の生き残りではなく、色つやもよい壮年世代です。
お湯の中でゆっくりと燗をつけるだけではなく、ピカピカに磨きこまれた銀製のヤカンを持って客席を回り、1人1人の目の前に置かれたコップに絶妙な温度にお燗されたお酒をついでくれます。
ハイライトは(表現が昭和ですが)、その注ぎ方です。
棍棒のような太い腕に抱えられた大きなヤカンから、「ドボドボ!」と凄い勢いをつけて太い水流でお酒を注ぐのですが、7勺(しゃく)ばかりの小さなコップに寸分の過不足もなく次ぎ終わります。
コップにお酒で表面張力が働くように、見事に適量を注ぐのであります。
スペイン(もしくはスペイン料理屋さん)に行くと、樽からシェリー酒を注ぐときに、あの空中給油のような離れ技を披露してくれる店があります。
お酒が空中を飛び交うわけではありませんが、あれに近い曲芸として、お燗番の技を楽しみにして来るお客さんも多くいます。
なので、燗酒の注文も減りません。だから職種としても存続している――という好循環になっています。
当のお燗番氏は、ほかの仕事、たとえば来店客の案内、注文取り、お運びなどはもちろんしません。
それだけではなく、ビールや焼酎などの注文への対応も他の店員が行い、清酒であっても冷たいものへの対応もしないという徹底ぶりです。
これほどまでに純粋なお燗番は、いまどき非常に珍しい存在です。
マクロでは絶滅危惧種でありながら、この店内では動態保存ではなくバリバリ現役の全盛期です。
機会があれば、実際に注文してみることをお奨めします。
我国最後(?)のお燗番の秘技を目に焼き付けておくのも、呑兵衛として損はありません。
これほどまでに純粋なお燗番は、いまどき非常に珍しい存在です。
マクロでは絶滅危惧種でありながら、この店内では動態保存ではなくバリバリ現役の全盛期です。
機会があれば、実際に注文してみることをお奨めします。
我国最後(?)のお燗番の秘技を目に焼き付けておくのも、呑兵衛として損はありません。
(本稿の初出は、『賢者のワイン通信』第2号、2023年5月10日発行 でした)